地方の中小企業の利益を3倍にする経営コンサルタント 本田信輔です。
今回お伝えするのは、洋菓子店オーナーやパティシエさんのお問い合わせ・経営相談で必ず出てくるテーマ「うちの店は、なぜ利益が出ないのか」です。
これは洋菓子店やケーキ屋さんが長年抱えている課題とも言えます。
「生産性が低い・上がらない」・・・正確に言えば「生産性が低すぎる」
給与で言えば、正社員でも東南アジアの平均年収レベル。製菓業全体の課題といっても良いかもしれませんが、特に洋菓子店の生産性の低さは顕著です。
創業した時。自分が現場に立ってやっていた時は利益があって、その当時が一番収入が多かった。そう言われるオーナーも少なくありません。ある時点から急に利益が出なくなった・少なくなった。そう相談に来られる方は多いです。
自分や夫婦だけで商売しているのであれば気にしなかったが、息子や娘が後継として帰ってきてくれたので、ちゃんと利益の出る基盤を作りたいと相談に来られる方もここ数年増えています。
ではなぜ、あなたのお店・ケーキ屋さんは利益が出ないのか。
色々と課題はあると思いますが、今回は抑えるポイントを絞ってお伝えします。
目次
1.利益の出る売上づくり“1人当たり売上が低すぎる“を考える
利益を出すためには売上が必要です。
利益が出なくなった理由を伺うと「売上が下がった」か「原材料・経費が上がった」
だいたい上記2つのどちらか、もしくは両方が原因として言われることがほとんどです。
今回は、売上の面に絞ってお伝えしたいと思っています。
利益の面からいうと、ただ売上をあげたら利益が出るというのは違います。
大事なのは”◯◯当たり売上高“ということ。
その中でも一番重要なのが「1人当たり売上高」
従業員1人あたりの売上高です。売上高(年商)を従業員数で割って算出します。
年商1200万円で、オーナーシェフ1人で商売していたら1人当たり売上は1200万円(1200万÷1人)です。
実はオーナー1人やご夫婦で経営している時は、売上が少しぐらい落ちてもなんともない。売上が低くても、生活していけるだけの収入があることが多いです。
逆に、少し売上が上がりはじめ、自分たちだけで手が足りなくなり、従業員を雇い始めると一気に利益が落ちたり、利益の出せる売上のハードルが大きく上がったり、オーナーの収入が減ってしまう事態が起きる。
なぜかというと“一人当たりの売上高”が大きく落ちるからです。
例えば。年商1200万円で、オーナーシェフ1人で経営していたら、一人当たり売上は1200万円のお店で、新たに従業員を雇ったとする。
そうなると年商1200万で、オーナーシェフ+従業員1名=2名となり、一人当たり売上は600万円に下がる。
仮に売上に対する人件費率を30%として考えても、
年商1200万円で、
オーナー1人なら360万円の収入。
オーナー1人+従業員1名なら各180万円の収入。
もしも年商が1500万円にUPしても、
オーナー1人+従業員1名なら1人当たり売上は750万円、収入ベースで各285万円です。
収入からみても、利益が減るということがわかります。
まずはあなたのお店・会社で“1人当たり売上高”を算出・確認してみましょう。
算出は簡単です。
(年商÷従業員数=1人当たり売上高)
全国で見ると菓子製造・小売業の1人当たり売上高は約700万円。これは他の業種と比較しても半分以下の値です。中小企業の製造業は1800万円弱、中小企業の小売業で1500万円弱ですので、いかに低い生産性であるかわかってもらえると思います。
ちなみに弊社のクライアント先や、菓子店で利益をちゃんと出し、従業員にも給与を出している会社の1人当たり売上高は1500万円〜を目標にしています。
簡単に言えば。1人当たり売上高が1000万円に達しないのであれば、利益体質とは言えないし、今後の経営存続を考えても早めの対策・改善が必要です。
1人当たり販売高が見えてくれば、今いる人員でどれだけの売上を目指すかも決まってきます。
1人当たり売上高は年収や給与を図る指標でもあります。1人当たり売上高1500万ということは、会社の平均年収が300万〜400万円ということ(日本の平均年収は441万円 ※2020年国税庁調べ)
地域格差、社内の給与差はありますが、地方の主な中小企業と同等の給与水準。地方で生活している30代の男性社員が家族を養い、車を持つことができ、子どもを進学させられる年収ラインにようやく乗ることができます。
逆にこの“1人当たり売上高”が低ければ、
・長時間労働になりやすい
・給与が低く、家族を養えない。ほかの企業との差がつく
・離職率が高くなる。
・長期雇用による技術向上・人材育成ができない
・会社は利益が出ない
・財務体質が弱く、倒産の危険性が高まる
・後継者がいない、継がせられない
などの事態が発生しています。
そのほかにも◯◯当たり売上高という指標があって。
例えば菓子店の場合。駐車場1台スペースあたりの売上高は800万〜1000万(駐車場の外に恒常的な渋滞ができないレベル)が上限になります。
例)駐車場が7台とすると、店舗の年商上限は6000万〜7000万になる。
店舗の売上を改善したい時(増やしたい時)は、これを店舗のポテンシャル指標として活用します。
複数の店舗がある場合は、どの店を重点的に強化するかの判断材料にもなります。
もしも十分な駐車場台数があるにもかかわらず、売上が低いとしたら。
まだまだ売上を獲得できる余力があるということ。お客さんが駐車場の存在を知らないなど。基本的な情報発信などもチェックしていく必要があります。特に地方の店舗の場合、しかも菓子店の場合は女性ドライバーがほとんどです。認知されづらい駐車場ではないか。もっと駐車場の説明をわかりやすくしたら良いのでは。そんなことからも改善ができます。
逆に売上に対して、駐車場台数が少ないのであれば、店舗としてのポテンシャルを見直すことが必要。駐車場台数を増やせるかどうか?該当店舗以外(別店舗の売上や通販・オンライン・観光、新規出店など)で売上獲得を目指すのかを考えていく必要があります。

2.なぜ、洋菓子店の1人当たり売上高は低いのか?利益が出ない一番の原因は“値決め”にある
洋菓子店を始め、地方の菓子店の1人当たり売上高が低い原因としてあげられるのは、
・企業規模が小さいところが多い
・洋生など人の手にかかる仕事が多い
・1つ1つのお菓子に手間がかかる
・ロス率が高い、売れ残りが出る
・売上が上がるほど、人手がかかり、労働時間が増える
などを理由に上げるケースが多いのですが、
私は一番の原因は利益の出せる“値決め”ができていないことだと考えています。
ちなみにいうと、私どものクライアントはこの利益を出せる“値決め”ができていて、同業他社と比較しても約2倍〜3倍の利益率になっています。
例えば、1日にいちごショートが100個売れるとします。(洋生全体で考えても良いです)
このいちごショートをもっと美味しく、見た目もレベルアップさせて100円価格をあげて販売できるように考えてみませんか?
100円×100個=10,000円
純粋に1日、1万円の利益が増えます。
これがもしも1年間だとしたら1万円×365日=365万円の利益UPです。
もしも原材料のレベルを上げたとして、原価がプラス20円となっても
80円×100個×365日=292万円の利益UP。
これだけの利益が増える計算です。
お客様にも満足してもらいながら、利益の出せる適正な価格で販売する。
この取り組みをするだけでも年間の売上は10%以上、上がりますし、
利益ベースで見ても、売上に対して5%〜7%の利益UPになります。
多くの菓子業の経営者、洋菓子店のオーナー、パティシエはお菓子づくりの技術はお金を払っても勉強していますが、値決めのことを勉強している方はごく一部。
原価率は25%!・30%!と固定した昔ながらの原価率による値決めや、「なんとなくこれくらいだろう」と感覚だけで値付けをしてしまう。それが業界の当たり前とおっしゃる方もいます。
1個100円なのか、120円なのかでも1年間で見れば利益は大きく差が出る。そのことをわかっている経営者だけが利益を上げることができています。
さらに言えば。今ある商品の値決めを見直す場合の目安は今の商品価格+20%です。今の価格を1.2倍にした価格でお菓子が売れないか考えて見てください。たかだか20円、50円、100円と思うかもしれません。ですが、これらの値決めの違い一つで1年間に数百万円クラスの利益をみすみす逃しているのです。
しかも働く時間は増えません。同じ労働時間で、今以上の利益が出せるので給与や時給を上げることができます。
(逆に労働時間を長くして、給与を上げるということは意味がないです)
製造にかかる無駄なコストを増やすこともありません。
洋菓子店の生産性が上がらない課題
・洋生など人の手にかかる仕事が多い
・1つ1つのお菓子に手間がかかる
・売上が上がるほど、人手がかかり、労働時間が増える
などもクリアする解決策です。
3.個人経営の洋菓子店が利益を出せない二つ目の原因は“間違った売上アップ”
自分で店を持てば、ほとんどのオーナーが売上を上げようとします。
特に初めて店を持った創業オーナーは、ゼロからのスタートなのでどんな形でも売上を獲りに行こうとします。もちろん売上を獲りにいくことは良いことです。ですが間違った売上アップで利益が減ってしまうことや、自身も消耗してしまう場合があります。
その失敗例をまとめています。
(1)卸やイベントへの出店で消耗する
まとまった金額の入る卸、百貨店や人が集まるイベントなどへの催事出店。声がかかった時には売上が上がると思うのですが、実際には労力がかかる割に利益が少ないとことがほとんど。
卸であれば通常価格よりも割り引いた金額(時には価格決定を卸先に握られる場合もあります)で納品やしたり、売れた金額の何十%かを手数料として持っていかれるため、お店の収益構造は悪化します。しかも自分たちのお客さんになる可能性は高くありません。
イベントへの催事出店なども同じ。現地まで行く時間とコスト(従業員を派遣するコストも含む)、商品を事前に発送するコストなどを考えれば、出店して商品を売ったとしても手元に入る利益はわずか。認知度を上げるために販促費と割り切るケースも伺うことがありますが、かけるコストや労力に対してリターンが悪すぎることも多いです。
実際、売上の多くを卸やイベント出店などに頼っている洋菓子店・ケーキ屋さんの利益率は低いです。頑張った割に利益は少なく、労力だけを消耗していきます。
(2)技術力を活かし、商品を広げすぎて消耗する
そもそも独立して、自身の力で洋菓子店やケーキ屋さんを創業しようとするオーナーはお菓子づくりの高い技術力を持っています。もちろんアレンジする力もある。
その技術力を活かして売上を上げようとすると、商品のラインナップを広げていくことになりがちです。色々なお菓子があれば、お客さんが多く来店してくれて、売上が上がり、利益が増えると思うのですが現実は違います。
日持ちがしない当日製造のケーキ、洋生やプチガトーのアイテム数を増やすのは現実的に難しいと考えるのか、季節変化で勝負して、店頭に並べる種類を増やすには上限があると考える方がほとんどですが、焼き菓子になると話は別。原価率が低く、日持ちがして、味のバリエーションを広げられることから、どんどん種類が増えていくことになります。結果、商品を広げすぎて製造効率が悪化していきます。
ただでさえ少ない労働力で、少量多品種の製造をおこなったら。奥さんや家族も巻き込み無駄な労働時間。時にはオーナー自らが徹夜して商品を作っているケース、中途半端に稼働する機械投資など労力とコスト両面で負担は増加。かといって人材や機械も揃っている企業型菓子店と比較したら、個人経営で製造できる商品の種類は少なく。頑張った割に企業型菓子店ほど商品の種類を増やせず、中途半端な商品構成が出来上がり、集客できず、差別化もできず消耗していくことになっています。
(3)値引き競争で消耗する
意外とやりがちなのですが、
「折り込みチラシを入れて、来店特典としてお菓子をプレゼントしよう」
「次回、来店してもらうために1000円以上のお買い上げに100円のクーポンをつけて」
「雑誌に広告を掲載して、店舗で雑誌を見たといったら値引きする」
「こちらは自分たちで作っていて、人件費がかからないから競合店よりも安くしよう」
など集客や売上を獲得するために値引きしたりするのは、経営の面から見てメリットはほとんどありません。値引きは労力・コスト・心、すべての面で消耗します。個人経営だからこそ、価格訴求やおトクではなく、価値を理解してもらうことに注力した方が利益を出せるようになります。
どの失敗も経営的な視点がないために起こること。売上だけに目が行き、利益という視点が抜けていることが原因です。
売上とコストから計算すると利益が出るかどうかはわかります。自分が若いうちは体力・気力で乗りきれるが、長い視点で見れば継続することは難しいこともわかります。今、成功して利益を出している先輩オーナーたちもこういった失敗から学び、職人ではなく、経営者の視点を持つことで乗り越えてきているのです。
4.個人経営の洋菓子店だからこそ、利益の出せる商品構成を。
個人経営の洋菓子店・ケーキ屋さんが利益を出そうとしたら、
考えておくのは、
“売れれば売れるほど、儲かる主力商品を開発する”
“売れれば売れるほど、自分たちが苦労する商品は作らない・売らない”
この2点に集約されます。
・商品の種類を広げるのではなく、絞り込み少数精鋭の商品構成にする
・価格訴求をせず、価値を高めて利益の取れる価格をつける(正しく値づけする)
・他には負けない強い主力商品の育成に注力する
これは洋生・プチガトーだけではなく、焼き菓子にも言えることです。
個人経営の洋菓子店オーナーはパティシエ兼経営者であることが多くあります。自身が頑張ればなんとかなると思いがちですが、まずはその発想から抜け出すことが利益を出せる商品構成づくりの第一歩です。
毎日店舗併設の工房で、手作りで製造しているからこそ、コンビニや大手競合店とは違う差別化要素を生み出すことができます。日持ちのする焼き菓子に頼らずとも、コンビニや企業型菓子店ではできない出来立て商品を差別化要素として高収益をあげているケーキ屋さんもあります。
まとめ
利益を上げている洋菓子店・ケーキ屋さんほど“経営”の視点を持っています。個人経営の洋菓子店オーナーは“職人の視点”と合わせて“経営者としての視点”を経営した時点で持つことです。
・大前提となる“値決め”の重要性を知り、本気で取り組むこと。値付けは経営者の権限です。
・利益の取れる売上を考えること。間違った売上アップで消耗しないこと。売上ではなく利益の視点で判断することが経営。
・利益の取れる商品構成を作る。少数精鋭。強い主力商品づくりに注力する。
これら3つの点を経営者としてどう決断するかで、明日の利益を得られるか、得られないまま進んでいくのかが決まります。どんなに現場が生産性改善・業務改善に取り組んだとしても、その効果よりはるかに大きな利益は経営者の考え一つで決まる。これが個人経営・中小企業の経営です。
通常は利益が出ないと言われている洋生でも十分に利益を生み出している洋菓子店オーナーが存在します。焼き菓子に頼らずとも利益を生み出す体制を作っているケーキ屋さんがあります。原材料高騰、人件費高騰の中でコストが減らしづらい昨今、個人経営の洋菓子店・ケーキ屋さんにおける“経営力”の重要性はさらに上がっています。
コスト削減、製造効率UPも大事です。ですがそれ以上に効果があり、即効性がある“値決めの適正化”については特に意識して欲しいと思います。
まずは経営者であるあなたがが“値決め”の重要性を知り、本気で考えること。値づけは経営者の仕事であり、経営の根幹に関わる重要な権限です。経営者がどう決断し行動するかで、明日の利益を得られるか、失ったまま進んでいくのが決まります。
このことが洋菓子業界、製菓業界全体が発展していくきっかけになればと思います。
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