社長と社員の見える景色の違い。組織を動かす翻訳術
孤高な社長の孤独経営コラム

なぜ、社長と社員の「危機感」はズレるのか?組織を動かす「視点の翻訳」術

なぜ、社長と社員の「危機感」はズレるのか?組織を動かす「視点の翻訳」術

「この記事を読むとわかること」

  • なぜ、社長の言葉は現場に響かないのか?
  • 現場が自発的に動き出す「具体的な言葉選び」
  • 「数字」を「行動」に変えるステップ

「会社の経営は大変。業界も厳しい。こんな危機的なのに。なぜ現場は不安じゃないのか?」
会議では数字を共有し、現状の厳しさは言葉でも伝えている。テレビやインターネットでも業界の厳しさが伝えられている。

それでも、会議に参加した目の前のリーダーや社員たちは俯いたまま、どこか他人事のような空気感もある。

「どうして、自分たちのことだと思わないのか?危機感はないのか?危機感があったら動くはず・・・」

多くの中小企業経営者が直面している、社員との「危機感のズレ」
実はこれ、リーダーや現場の「意識の低さ」や「能力不足」といった人の問題ではありません。

社長と現場が見ている「視点」が全く違うことから生まれる、組織構造上の大きな課題の一つです。

今回は、この組織の課題を解消し、動ける組織になるための「社長の危機感を現場に伝える翻訳術」について解説します。

1.社長と現場の視点はなぜズレてしまうのか?「望遠鏡」視点の社長と「顕微鏡」視点の現場

どんなに厳しい状況を伝えても、社長が正しいと思うことを伝えても、正論を伝えても現場は動かないのか。

その理由は、社長と現場では使っている視点の「見ている距離:レンズ」が根本から違うからです。

遠く、先を見る社長のレンズは「望遠鏡」
経営者として、社長が見ているのは、3年後、5年後の会社の姿。市場の動向、金融機関との関係、そして「もしも、今動かなければ、会社が続けられなくなる」という危機感。社長の視点は常に、未来と外を見ています。

近く、今を見る現場のレンズは「顕微鏡」
今日の売上、今日のお客様のクレーム、明日のシフト調整、目の前のやるべき仕事。そして「今日も無事に仕事が終わるか」という日常。現場の視点は「今、ここ」に強く焦点を当てて見ています。

望遠鏡で見ている景色(未来の危機)を、顕微鏡で作業している人(現場)にそのまま伝えても、ピントが合わないのは構造上、当たり前のこと。

この「視点のズレ(お互いに反対を見ている)」に気づかないまま危機感を煽ることは、足元しか見ていない人に、真っ暗闇の中で、遠くの灯台を指さして「あっちに走れ」と叫んでいるようなもの。

 

2.組織を止めてしまう「視点の詰まり」が生み出す本当の正体

このズレを放置してしまうと、社内や組織には、かなり厳しい「詰まり」が生まれてきます。

①数字が意味のないものになる

例えば、「利益5%改善」「生産性20%アップ」という言葉は、社長にとって「会社の生き残りをかけた」数字に見えます。経営者や金融機関・顧問税理士など経営を見ている人にとっては至極当然の数字です。ところが、社員や現場にとっては数字の解像度が大きすぎて、自分が何をするのかわからない。わからないまま、単に「また仕事が増える、自分たちの負担が増える」文字の羅列にしか見えなくなってしまいます。

②変化に対する「拒否反応」

「現場は変わるのを嫌がる」これは、中小企業経営者の方々がよく口にする言葉。

「何かしようとするたびに、いつも現場から反対される」これは、まさに現場にとって変化することが、今この瞬間の「安定」を乱す要因と感じている、わかりやすい現象です。

現場や社員にとっては、今を変えることが、将来の「自分たちのメリットにつながる」と明確にならない限り、今の苦労を超えるものがない限り、本能として現場は変化を拒んでしまいます。

③「どうせ言っても無駄」という諦め

現場と視点が合わないまま、社長が変化や改善だけを進めていこうとすると、最終的には「社長は現場の苦労をわかっていない」という声が出始め、
社長には「現場は危機感がない」と相互不信の詰まりが、修復不可能な状態になってしまいます。

3.【事例】社長の「利益率を上げろ」という言葉が現場を止めてしまった食品製造会社

これは私が相談を受けた、ある食品製造小売業の社長の事例です。

原材料の高騰、コストも上がり、さらには従業員の人件費を上げていかないといけない状況で、会社の利益は大きく減少。お客様の買い控えも影響し、売上も厳しい状態。
その中で、社長は会議のたびに、決算書や月次の試算表の数字を言いながら、「このままでは会社の利益が出ない。利益率を5%改善しないと。一人ひとりがコスト意識を持ってくれ」と言っていました。

そのまま会議に参加していると、時間がたてば経つほど参加者の表情は暗く、やる気を失っていく空気感がだけが漂っていました。

会議が終わったそのあと。
ある現場リーダーから
「本田さん、会議の社長のあの話、どう思います?」と声をかけられ。
「社長は、現場のことをわかっていない。みんな忙しい。自分たちも頑張っているつもりなのに、何が足りないんですかね・・・」
まさに、ここが「視点のズレ」だと感じました。

事前にお話を伺っていた社長は、そんなつもりは全くありませんでした。この会社の社長は現場からの叩き上げ。繁忙期には現場にも入ります。利益を確保したいのも、会社の存続や従業員の給与を確保するため。そのために自身も頑張っている。少しでも良いからリーダーや従業員にも協力してもらいたい。

そのわかりやすい目標として「利益率を5%改善」と言ったつもりでした。

ところが、現場の視点には「5%の利益率」という数字は全く響いていない。
現場にとっての日常は「美味しいものを作り、お客さんに喜んでもらうこと」。そこに無機質な数字をぶつけられたことで「これまでの自分たちの努力が足りないと言われている?」「また面倒な仕事が増えるのか?」というマイナス思考になってしまった状態です。

だから、現場は動かない。正確にいうと動けない。
現場は「怒られないための最小限の仕事」に終始し、組織が動かない詰まりをより深めている原因は明確でした。

この時の私の役割は、
「頑張ろう」と声をかけることではありませんでした。

私がお伝えしたのは、事前に社長と共有していた経営数値を現場行動に置き換えること。

「利益率を5%上げるために、まずは製造さんへは『毎日、ロスになっている材料をゴミ箱1つ分減らすところから始めよう。製造にはたくさんのパートの人たちがいて、家庭の台所と同じように考えてもらったら良いんじゃない』

販売さんには『この生産性が高い商品を、10人中3人に1個ずつ買ってもらえるように声掛けをしよう、○○店に売り込むのが上手な販売員さんがいたでしょ。あの人からどういう声をかけているかを教えてもらって、みんなでやってみよう』

製造と販売で少しずつ始めたら、皆さんの時給を10円上げられるための利益が出るから」

これを私は「行動と目標の細分化」という言葉でお伝えしています。
社長が掲げる数字・・・この会社では「利益率5%」を、現場のわかる行動「ゴミ箱1つ分」「この商品をお勧めして10人のお客様のうち、3人に買ってもらう」という具体的な行動や目標にまで落とし込むこと。

これによって、現場が自分たちは具体的に何をしたら良いのか、その結果がどうなるかまで明確になることで、経営者と現場の「視点のズレ」は解消し、組織として改善に向けて動いていくベース作りを行いました。

4.社長と従業員の間に必要なのは、現場が動ける数字や行動の「翻訳」

その会社で、現場リーダーと話をしたあと、その会社の現場は少しずつ改善が進み、
今では社長が掲げていた「利益率5%改善」目標を上回る、7%近い改善を実現しています。

年度末のボーナスも、少しですが増額することもできました。

以前、会議後に私へ話しかけたリーダーは「現場の雰囲気が変わった。まずは自分のやることが見えてきて。少しずつ、社長が言っていた意味もわかってきた」と変化をプラスに捉えてくれるように話してくれました。

そして、後から社長に聞かれたのは、
「社長の自分が何度言っても、現場は全然動かなかったのに・・・。本田さんが言ったらすぐに動き始めた・・・なんで・・・?」
という苦笑まじりの問いかけ。

私は「社長。経営者の言葉と数字で伝えても、現場は動けないですよ。私が話したのは、社長の言葉を、現場の言葉と動きに落とし込んだんです」
とお伝えしした。

数字目標と伝えたり、叱咤激励で現場は動かない
「視点のズレ」を解消して、現場に「危機感」を持ってもらいながら、組織を動かす要因は、さらなる社長の叱咤激励や威圧ではありません。

  • 数字を現場の行動に翻訳する
  • 未来の危機を、自分たちが「守りたい価値」を翻訳する

社長が持つ数字を、現場の数字や行動に翻訳(落とし込む)ことをしながら、「今後は危ない」と危機を煽るのではなく、「今、私たちは守っている品質や、お客様の笑顔とみんなの生活を守り続けるために、今は変化が必要」と、現場の誇りも大事にしながら、伝えていくことで、現場は動き始めます。

改善の数値を具体的な行動に落とし込んで伝えても、それでも組織が動かない。と感じている方へ。もしかすると別の要因かもしれません。社長の責任と現場の責任が明確になっていますか?経営改善や値上げが進まない理由。

まとめ

組織が動かないのは、社員のやる気がないからではありません。
ただ、社長と現場で「見ている視点が共有されていない」だけなのです。

  • 社長が望遠鏡で見ている未来
  • 現場が顕微鏡で見ている日常

この2つの視点をつなぐ「翻訳」ができた時、
組織は動きはじめます。

しかし、中小企業の経営者自身が「望遠鏡」を覗きながら、顕微鏡の言葉に翻訳し続けるのは、並大抵ではありません。

会社の外や未来を見る社長が、常に現場の視点に合わせ続けるには限界があります。

社長の思考を整え、現場の言葉や行動に落とし込む。
私は「組織の翻訳者」の役割として、
経営者の判断に寄り添うことを大事にしています。

 

【著者プロフィール】
経営改善コンサルタント/ミタス・パートナーズ代表
地方の小さな菓子店に生まれ、経営者である両親が売上や利益、従業員との関係に悩みながら意思決定していく姿を間近で見て育つ。
現在は「やり方」よりも「決断し、できるようにする」を重視し、食品製造小売業・飲食業・サービス業を中心に、価格戦略の見直しを切り口としながら、「経営者の決断を整え、組織実行までを支える伴走支援」を行なっている。地方にある中小企業250社以上の動ける組織づくりと利益3倍化を支援を行う。

 

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