「みんなで決めよう」が組織を止める。中小企業で値上げも改善も止まる「責任の詰まり」の正体
「これからの価格の見直し、いくらにするのがいいと思う?現場の意見を聞かせてほしい」
一見、社員や現場の声を尊重し、納得感を持って動いてもらおうとする、「優しい経営者」の言葉に聞こえます。ところが、この一言が組織の動きを止めてしまい、会社を赤字に引き戻す引き金となるとしたら。
中小企業で「値上げが決まらない」「会議で決めても実行されない」「社員や組織が動かない」「経営改善が進まない」最大の原因。
それは「能力」や「意識ややる気」の問題ではありません。
誰が何を決定し、その結果に誰が責任を持つのか。「責任の所在」が曖昧になってしまう、会社の仕組みにあります。
前回の記事では「視点の詰まり」を解説しましたが、
今回はもう一つの大きな原因である「責任の詰まり」を詳しくお伝えします。
→なぜ社長と社員の「危機感」は共有されないか?組織が動かなくなる「視点のずれ」を解説
目次
1.【事例解説】利益改善から一転。老舗和菓子企業を赤字に再転落させた「優しい問いかけ」
私が以前ご支援した、ある地方の老舗和菓子企業での出来事です。
一度目の支援で、社長と常務と私が主導して適切な価格改定(値上げ)を行い、わずか半年で営業利益は7%以上改善。会社は大きな黒字へと回復しました。
しかし3年後。要請を受けて久々にご訪問した際、会社は再び赤字へ転落。再度の値上げが必要な状況。そして会議中に社長は会社の販売リーダーたちに、こう投げかけていました。
「原材料もコストも上がっている、いくら値上げしたらいいか。みんなで考えてみてほしい」
社長としては、現場を信頼し、自分たちで決めた価格なら納得して売ってくれるだろうと考えたのだと思います。
ですが、現場リーダーから帰ってきた言葉は、
「今はタイミングが・・・」「値上げしたら、お客様が離れてしまう」「値上げしたとしても少しだけ・・・」といったできない理由や、会社の利益回復には到底繋がらない消極的な意見ばかりでした。
社長は呆然。「なぜ。これだけ会社は苦しいのに。日々の売上や客数を見ていれば、みんなはわかっているはず。だからこそ現場の意見を大事にしようと思ったのに・・・」と表情からは苦悩が滲み出ていました。
現場リーダーは、会社が3年前に値上げして、大きな利益が出たことも知っているはず。
しかも、その時に特別ボーナスが出る経験もしています。
それでもなぜ、現場はこれほどまでに動かなくなったのでしょうか?
2.なぜ「みんなで決める」と組織は止まるのか?|現場を襲う「決定責任」の恐怖
社長は「現場の声を大事にする」つもりでも、現場はそう受け取りませんでした。
「値上げの価格を自分たちで決めたら、もしも客数が減ったとき、私たちの責任にされる」
日々の売上や客数の増減をリアルに受けている現場にとって、値上げをすることは恐怖です。不安です。「値上げを知ったお客様と直に接しているのは自分たち」そんな思いが不安を増幅させます。
しかも、その「決定する責任」を渡されるということは、失敗した時の責任を背負わされるリスクでしかありません。
恐怖や不安を感じた社員や現場は、「現状維持(何もしない・何も変えない)」を選択します。これが組織を麻痺させてしまう、「責任の詰まり」です。
→「うちは大丈夫・・・」という空気感が一番危ない 危機感が浸透しない本当の理由を解説
社長としては良かれと思ったことでも、その結果、社長と組織の間は「詰まり」、会社の大きな動きが止まってしまったのです。
3.組織を再起動させる「責任の再定義」|決める人と動く人の役割分担
この会社で私が行なったのは、社長の決めること、リーダーや現場のやること。これをちゃんと分けること。そして、社内で明確な言葉にすること。
「値上げは社長が決める。その結果、売上や集客に影響が出ても、それは経営者の責任」
「リーダーや現場は、その値上げした分の価値を作り出す努力を。製造はもっと美味しくて、安定した商品づくり。販売やお店は、日々のサービス力を上げること。商品の説明を自分の言葉できるようにレベルアップすること」
こういった形を社内で整理し、伝え、社長にも現場にも明確に認識してもらうことで、組織を再起動し始めるようにしてきました。
- 経営者の役割:100%の「意思決定」と「結果責任」
価格をいくらにするか。それによって離れていくお客様がいることを決断する。どの不採算事業を切り捨てるか。こうした「痛みを伴う決断」をするのは、社長だけの仕事です。「全責任は自分が持つ」と宣言し、決定の責任を現場に委ねない。これが、社員や現場に安心感を与える唯一の方法です。 - リーダー、社員、現場の役割:100%の「手段の選択」と「遂行責任」
「決まった価格で、どう価値を伝えるか」、「どうすれば1人でも多く、値上げした価格に納得してもらえるようにするか」。社長の決定を前提として、その「やり方」に知恵を絞り、具体的な行動にしていくのが、現場やリーダーの本来の仕事です。
「決める責任」をから離れた現場は、初めて「自分たちはどう動くか」という前向きな思考に変わっていくことができます。

「丸投げのやさしさ」が、現場の足をすくませる。そんな思いにさせていませんか?
経営者が負うべき「決定の責任」を現場に渡した瞬間、現場は「失敗の恐怖」から現状維持を選びます、これが組織を止める「責任の詰まり」です。図のように社長が責任を担う防波堤の役割を明確にすることで、初めて現場は前向きに動き出すことができます。
4.まとめ 社長、無意識のうちに、その重い責任を現場に背負わせていませんか?
値上げや新しい取り組みが組織で止まっている場合、それは現場の意識が低いからではありません。社長が負うべき「決断の責任」を、無意識に現場に押し付けている状況が生まれているかもしれません。
組織や社員が動かない「詰まり」を解消するのは、根性論でもモチーベーションアップでもありません。
「誰が決めて、誰が全責任を負うのか」という意思決定の流れを整え、明確にすること。
値上げや新しい取り組みが会議では決まるのに、現場で止まってしまう。
そんな社長の決断が、現場で止まる状況が続いているのであれば、
組織の中に「責任の詰まり」が起きている可能性があります。
その重荷となっているものを一旦下ろし、組織が迷いなく動ける「仕組み」を一緒に作っていきましょう。
→社長だけが焦っている会社の共通点。社長が焦るほど組織は動かなくなる
【著者プロフィール】
経営改善コンサルタント/ミタス・パートナーズ代表
地方の小さな菓子店に生まれ、経営者である両親が売上や利益、従業員との関係に悩みながら意思決定していく姿を間近で見て育つ。
現在は「やり方」よりも「決断し、できるようにする」を重視し、食品製造小売業・飲食業・サービス業を中心に、価格戦略の見直しを切り口としながら、「経営者の決断を整え、組織実行までを支える伴走支援」を行なっている。これまでに地方にある中小企業250社以上の動ける組織づくりと利益3倍化を支援を行う。
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