老舗菓子店の経営再建・事業再生に必要なこと
孤高な社長の孤独経営コラム

老舗菓子店の経営再建に必要なのは「改善策」ではなく、止まった会社を「動ける」ようにすること

老舗菓子店の経営再建に必要なのは「改善策」ではない。止まった会社を「動ける」ようにすること

近年、地域の老舗と呼ばれる菓子企業や食品企業の相談や案件が増えています。

報道やネットニュースでも毎週報じられるようになった「老舗の倒産・廃業・自己破産」
そうならないよう必死になんとかしようとする企業からだけではなく、商工会議所や金融機関、自治体の外郭団体などからの要請で、経営再建や事業再生を依頼されることが多くなりました。

実際に経営の実情を把握すればするほど、本当に厳しい。そんな中で経営再建を進めていく上で重点を置くのは「改善案や改善策」ではありません。

本当に大事なのは、
①経営者の経営再建にかける明確な意志表示
「なんとかしたい」ではなく、「変えてでも会社を立て直す」という覚悟を示す

②具体的な実行に移す体制づくり
「何をするか」ではなく、「誰が、いつ、どうやって実行するか」

③社長と、地元、金融機関、専門家が一体になった支援体制の構築
「誰かに頼る再建」ではなく「各々が役割をもって再建を支える」

の3つが揃って、計画が「紙に書かれたもの」から「現実の成果を伴った、実際に会社を変える計画」になります。
今回は、現在、経営再建を支援している老舗菓子店の事例から、私が重要だと考えている、大事な3つのテーマについてお伝えします。

 

1老舗だからこそ陥る「変えられない」罠(事例:創業百年の老舗菓子店)

経営再建・事業再生をご依頼されている、ある老舗企業の話です。
100年以上の歴史を持ち、地域の顔や経済界のまとめ役なども果たしてきた、老舗の菓子企業です。
初めて経営再建の要請があったのは、自治体の外郭団体からでした。
「本当に厳しい状態。打ち合わせには銀行の担当者も、商工会議所の方も同席します」

厳しい財務状況とズラリと並んだ「変えられない理由」

事前に3年間の決算書を送ってもらい、内容を精査した結果もかなり厳しい。
コロナ以降、売上は右肩下がりで赤字が数年間続いており、直近3年間の営業利益は連続で売上対比20%以上の大きなマイナス。手元資金はみるみる減っていて、資金繰りも相当苦しいはず。
「これは…。おそらく銀行もこれ以上の融資は難しい。適切な手を打たなければ、1年と持たずに倒産する可能性が高い」

「いやぁ。本当に厳しい。どうにもならないんです」
初めてその会社に伺った際、社長から出た第一声でした。

そして、実際の打ち合わせへ。
打ち合わせには、先方の経営陣と工場長に加え、地元商工会議所の理事と担当者、銀行からは上級管理職クラスも参加するなど、この老舗企業の経営再建にかける地域の強い意気込みと重要な局面に入っていると感じたことが印象に残っています。

しかし、打ち合わせが始まり、様々な方向性や改善策の議論になると、先方の経営者や幹部から出てきた言葉は、
「うちには長い歴史がある、昔からこのやり方を変えずに守ってきた」
「昔から、多少マイナスがあってもケーキや洋菓子で集客して、贈答やギフトで利益を取ってきた。昔からのお客さんはそれを支持してくれてるはず・・・」
「改善を進めようとすると、古い従業員たちが従ってくれない。現場の言い分を聞かないと・・・」
「コロナと、最近の物価高騰や原価の高騰、人件費も上がっているし。地元の人口も減っているから・・・」
「いろいろな人が、いろいろなことを言ってくる。もうどれが正しいのかわからない」

いかにも老舗らしい、様々な「変えられない理由」が次々と出てきました。

なぜ、「改善策」があっても、倒産寸前まで追い込まれているのか?

確かに老舗企業の経営再建は、一般的な中小企業とは違う難しさがあります。

  • これまで長く続けてきたやり方が存在する(今のやり方が正しいという思い込み)
  • 従業員や顧客との長く深い関係性
  • 繁盛していた時代の記憶と成功体験の呪縛
  • 地域からの大きすぎる期待
  • 厳しくなった状況の中で、経営者自身が「何を変えたら良いか」が判断できず、動ききれない。

経営再建というと、「経費やコスト削減」「不採算部門や不採算店の整理」「売上を回復させる」「商品を見直す」といった施策を考えがちです。
しかし、実際の現場では、施策そのものよりも、「その施策を、求められるスピードとレベルで実行できる会社であるか」が最大の壁になります。

実際、この老舗菓子店に対しても、私が依頼を受ける数年前から、金融機関からの改善提案、商工会議所や公的機関の専門家派遣制度などを活用した「改善策」自体は提示されていました。
ところが会社は老舗特有の課題が障壁となり、会社として具体化・実行することができず(求められたレベルで改善を進めることができず)数年間の赤字を続け、経営再建・事業再生という段階にまで陥ってしまったのです。

 

2.経営再建・事業再生の第一歩は「経営者の明確な意志」

打ち合わせが進み、私がまず気にしたのは、経営者の

  • 「改善しようとしても、従業員が言うことを聞かない。現場に危機感がない」
  • 「改善を進めようとしたけど、古参の従業員の『現場は前からこうやっている』『やろうとしても人が足りない。誰がするのか』という意見で、できなかった」
  • 「まずは現場の意見を聞いて、調整して、やること・やる時間を決めようと思う」

といった発言でした。

経営者としては、会社を残したい、従業員を守りたい、地域のお客様にお菓子をこれからも届けたいという思いは当然あります。会社を立て直すために従業員と一致団結して、協力してもらいたい。そんな思いもあるでしょう。

「従業員の納得」を待つのではなく「経営者が決断して、断行」する

しかし、事業再生や経営再建といった場面では、
「なんとかしたい」という願望から、「たとえ社内で同意を得られなかったり、厳しい決断であっても、会社を存続させるために変える」強い意志へと切り替えていく必要があります。
「何をするか」を決める前に、「会社をどうするのか」を決めることが経営者の覚悟を決めるということです。

そして、その「覚悟」・・・「何があっても会社を変える」意志を、

  • 従業員の同意が得られないことであっても、変えていく
  • 利益が出ない商品を見直す
  • 価格(値上げ)を断行する。
  • これまでの習慣を変える
  • 組織や役割を変える
  • 経営者自身の判断も変える

など。「従業員が協力してくれない、動かない」のではなく、「経営者の強い意志」として、経営者判断(経営者の責任)で改善を断行する行動と、言葉の説明による意志表示がないことが、結果として従業員の行動を促したり、危機感を生み出すことにつながっていない。

「現場や従業員が、経営者の強い覚悟を感じられていない」という状況を変えていくことから始めていく必要がありました。

もちろん、従業員の意見を聞くことは大切です。
ですが、「従業員の納得してから決める」のと、「経営者が決断した上で、従業員の意思を聞きながら実行方法を考える」のでは、意味が根本から違います。経営再建・事業再生の局面では、最終的に会社をどうするか決める責任は経営者にあるということを、改めて経営者に理解してもらうことから始める必要がありました。

なぜ、最初の施策に「全社の大掃除」を選んだのか?

私は、この会社に対して最初に行う経営再建・事業再生の取り組みとして、全社レベルでの徹底的な大掃除と整理整頓を提案しました。
なかには、「なぜ大掃除なのか?」「全社を休みにすることで得られなくなる1日分の売上が惜しい」や「早く収益を回復させる施策を打ちたい」という意見もありましたが、「何をするか」の前に、各施策を社内で動かせるよう、目の前の環境を大きく、一気に変えること。
1日の売上を犠牲にしても会社を変えるという経営者の強い意志を、大掃除という取り組みで、現場に対して明確に示すことが、これからの改善策を進めていく上で、最も必要だと考えたからです。

 

3.第二歩目は、「何をするか」から「どうやって実行するか」への落とし込み

これまで関わった多くの再建計画は、

  • 不採算部門の削減、不採算店の閉店
  • 無駄なコストの削減や人件費の見直し
  • 商品構成の見直し
  • 原価率の改善
  • 販売強化、新販路の開拓

などの「やること」がリスト化されたもの。しかし、これはあくまでも「改善策」にすぎません。

「値上げ」を単なる案で終わらせない、具体的な実行計画

例えば「値上げ」であれば、「商品価格を平均20%値上げする」と決めることは経営判断です。しかし、その先に、

  • 商品ごとに、集客なのか、収益なのか、技術を見せるのか、役割を決める
  • これまで製造、販売してきた各商品に対する思いを整理する
  • どの商品をいくら値上げするか決める
  • 単品を値上げ額を決めたあと、箱入りやギフト商品の入個数や価格調整をする
  • 商品以外の、箱代や袋代、ラッピンサービスなどの値段はどうするか決める
  • 値上げして売れなくなると感じる商品は、リニューアルやスクラップをする
  • いつから値上げするのか決める
  • 従業員に対して伝える、「値上げの意味」を決める
  • 店舗、POP、接客、HP、SNSでどのように伝えるかを決める
  • 値上げの責任は、経営者にあることの共通認識を持つ

まで決めなければ、実際の値上げにはなりません。

「値上げする」は改善策。
「いつ、誰が、何を、どのような意思で、どうやって値上げするか」までを決めて、初めて実行計画になります。

経営再建や事業再生に必要なのは「何をするか=正しい答え」だけではありません。その行動を、求められるレベルで現場が実行できるところにまで落とし込むことなのです。

コスト上昇を価格へ転嫁する「値上げ」は会社の利益を守るためには重要な選択肢です。ただ「コストが上がったから⚪︎%値上げする」というだけではありません。どこまで価格に反映し、どこを吸収するのか?この判断こそ、中小菓子店や食品企業に求められる利益戦略です。→中小菓子店・食品企業の「正しい値上げ率計算」の考え方はコチラから。

 

経営者の孤独や不安を解消する「専門家の役割」

当然、進める中では、「業界の慣習」「競合他社の動き」「顧客離れのリスクと対策」など、様々な不安が出てきます。そうして懸念に対しては、私のような外部や専門家の役割として、客観的な視点や情報・理論に基づいて、経営者の決断をサポートすることにあります。
しかし、具体的な行動や期日目標を決めても、会社が苦しい時の経営者の孤独感や不安は相当のものです。だからこそ、次に述べる「第三のポイント」が重要になってきます。

 

4.老舗の経営再建・事業再生 第三歩のポイント 「会社の外」に支援体制(チーム)を作ること

商工会議所・金融機関・専門家を巻き込む「伴走型支援」

今回、事例としてお伝えしている老舗菓子企業でも、私が支援に入る前に、地域、金融機関、商工会議所、外部専門家、何より経営者・会社自身が、それぞれの立場から再建に関わる体制をつくろうというところから始めました。

まずは商工会議所へ。地域との支援や調整、公的支援、助成金や補助金などの情報提供、別分野の専門家制度の活用、違う角度からの意見。こういった部分で協力してもらえるよう、段取りをつけること。

そして金融機関。主に資金繰り。融資や返済に関する支援や猶予措置。そして金融の立場としての意見などで協力してもらえるように。

ここに外部専門家による経営改善・業界特化・商品・価格・組織づくりなどの専門支援を組み合わせることで、外部の支援体制を構築しています。

経営再建・事業再生段階の中小企業経営者は、とにかく多くの課題が山積、孤独と不安の状態。「明日の、来月の資金繰り」、「目先の人手不足で現場にも入らないと会社が回らない」、「売上を少しでも獲得するための催事やイベントに自ら出向く」「日々の細かなトラブル対応」 そのほかにも経営者としての役割があり、家族にも言えない悩み、誰かには相談できないこと、自分しか判断できないことを抱えています。

その中で、経営再建や事業再生を社長一人に背負わせることはいけない。

私はそう考えています。
外部の支援体制をつくるのは、「誰かに助けてもらう(依存する)」のではなく、「再建に向けてそれぞれが役割」を持つこと。これが、経営再建・事業再生を実現する伴走支援だと考えています。

なぜ、内部の人間で改善が進まないのか。中小企業の経営改善や事業再生・経営再建にとって必要な「第三の視点」の重要性をまとめています。外部を入れるメリットや費用についての考え方についても確認してください。

 

5.「老舗を残す」ことと、「昔のまま残す」ことは根本的に違う

残す「強みや思い」と、時代に合わせて「変えるもの」

老舗企業には他社競合がどんなに頑張っても持ち得ない、「時間の経過という武器」と「地域や業界における、ずば抜けた歴史と信頼」という強みがあります。
老舗菓子店であれば、地域の顔として、食文化や記憶や思い出、地域経済の一端を担ってきたからこそ、地元銀行も商工会議所も、なんとか暖簾を守ろうと考えます。

だからと言って、「歴史を守る」=「今までのやり方を変えない」になってしまうことは違います。

経営再建・事業再生とは、会社や暖簾を残すために、「何を守るのか・変えてはいけないのか?」と「何を変えていくのか?」を経営者が決断することでもあります。

  • 商品は残すが、価格は変える
  • ブランドは残すが、売り方は変える
  • 技術は残すが、その活かし方を変える
  • 地域との関係は残すが、販売方法は変える
  • 創業者や代々守ってきた思いは残すが、経営の方法は変える

伝統を継承しながら、時代に合わせて変革していく。「老舗の経営を変えながら、老舗という価値を未来に残していく」ことだと考えています。

 

6.まとめ:経営再建・事業再生とは、「会社をもう一度、動かすこと」

私は経営再建や事業再生の支援に入る時、最初から「これをやりましょう」と答えを出すことを目的とはしていません。
手元にくる経営再建・事業再生の案件では、どうしても「赤字を黒字にすること」と考えてしまいます。
もちろん、利益を出すための価格戦略や商品構成、販売方法、コスト削減など、具体的な改善策は重要です。
しかし、本当に大切なのは、数字を改善することだけではありません。

経営者が決断し、従業員や現場が動き、周囲が支え、会社自身が変わり始める。
「やりたい・変わらなくてはいけない」から、「できる・変わる」へ。
そこまでの「動く状態」にもっていくことが、スタートだと考えています。

経営の数字が苦しいほど、数字ばかりに目がいきます。
借入をしている金融機関からは、売上・利益・資金繰りといった目先の数字を指摘されることも増えしまい、どうしても経営者自身が近視眼的になってしまうことも少なくありません。
今回お伝えした、老舗菓子店の経営者も同じような状況になっていたと感じます。
だからこそ、単に「何をすれば利益が出るのか」を提案するだけではなく、「どうすれば、この会社が変わり、未来に向けて永続できるようになるか」を一緒に考えることが大事だと思っています。

老舗企業の経営者、今まさに支援を続けている商工会議所や金融機関の担当者へ。
経営再建や事業再生は、経営者一人が抱え込んで進めるものではありません。

「何から手をつけたら良いかわからない」
「これまで何度も改善策を提案してきたが、なかなか実行に移せない」
「提示された改善策に取り組んでいるのに、赤字の状態から脱却できない」
「経営者も現場も頑張っているのに、成果が出てこない」
「金融機関や地域として、どう支援していけば良いのかわからなくなった」

 

もし、そんな状況にあるのであれば、一度ご相談ください。

単に「こうすれば利益が出ます」という改善策を提案するだけではなく、経営者や支援されている方と一緒に、課題を整理し、何を守り、何を変えるのか。どうやって実行するのかまで考えながら、会社が動き出すための伴走支援を行います。

コスト削減や不採算部門の整理などによる利益改善には限界があります。商品価格、原価、販売方法、商品構成など会社全体で「利益が残る仕組み」を考えることが重要です。これまで支援してきた菓子店・食品製造販売会社の利益改善事例はコチラにまとめています。

また、経営者だけで解決できない課題については、商工会議所や自治体、金融機関、他の専門家など、必要な支援者と連携しながら、再建に向けた体制づくりを支援します。

老舗だからこそ、残したいものがある。
だからこそ、変えていかなければならないものもあります。

「なんとか会社や暖簾を残したい」という思いを、「これからも続けていく会社」に変えていく。
老舗企業の経営再建・事業再生について、一緒に考えます。

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